介護ロボットには「気を遣わなくて良いから介護されたい」という意見を40代以上の男女1238人を対象に、全国で実施した意識調査を2013年に見ましたが、現状はどうなのでしょう。
人手不足が言われて久しい介護業界ですが、想像したよりも介護ロボットの導入は進んでいないように感じます。
介護ロボットが導入されるメリットとして考えられるのは、
というものがあげられますが、意外なことに介護者が介護ロボットの導入に抵抗するケースが多いと聞きます。
以下の引用は川崎市高津区にある、介護老人保健施設 たかつ でのリハビリ補助ロボット「パワーアシストハンド」を導入した事例についてです。
老健に導入した介護ロボ、「自宅用に買いたい」との声も
介護老人保健施設たかつ 事務課長の湯浅氏
医療や介護の現場におけるロボット導入に関する講演が繰り広げられた「介護ロボットフォーラム2015 in 新横浜」(主催:かながわ福祉サービス振興会、2015年9月15日開催)。七沢リハビリテーション病院脳血管センター病院長の山下俊紀氏、特別養護老人ホーム新鶴見ホームの事務長の伊藤尚子氏に続き、介護老人保健施設たかつ 事務課長の湯浅亮氏が、手指の機能回復に向けたリハビリを補助するロボット「パワーアシストハンド」を導入した効果について講演した。 パワーアシストハンドは、樹脂製のジャバラが付いたグローブをはめて使うもので、ロボット研究開発拠点都市プロジェクトチームアトムが開発した。ジャバラへの給気と吸気を制御してジャバラを膨張・収縮させることで、手指関節の屈伸運動をアシストする。さがみロボット産業特区から商品化された最初のロボットだ。
手指の機能回復に向けたリハビリ補助ロボット「パワーアシストハンド」は、樹脂製のジャバラが付いたグローブをはめて使うタイプのロボットだそう。
付きっきりでリハビリを行うのが難しい場合などに、「放っておかれている」と感じさせないためにも、スタッフの負担軽減にもなっているとのことです。
たかつでは、足首の屈伸運動をサポートする器具「イージ・ウォーク」も採用済み。こうした器具を好む人が一定数いて、今では各フロアに何台か置いている という。パワーアシストハンドも導入してみると「自宅用に買いたい」と言い出すほど気に入る人が出てきた。例えば、麻痺(拘縮)の緩和のため、手指の中に クッションを握り込んでいる人が「これを使うと調子が良くなる。(普段は人の手を借りるところで)クッションを自分ではめられたのがうれしい」と喜んだ。
導入した反応として、こういった器具を好む利用者が一定数いることが分かったそうです。
確かに、リハビリに向かう姿勢は個人差が多いのでしょう。体調や年齢もあるでしょうが、家族や親戚、友人を見渡しても、怪我や手術のあとにリハビリをストイックにするタイプと、苦しいことは避けたがり、誰かに背中を押されてもなかなかやらないタイプがいます。
「もっとリハビリをして、早く元気になりたい」と考える人ならば、リハビリロボットを使いたいと考えるかもしれないし、そもそも忙しそうな介護者やリハビリのスタッフに負担をかけたくないと遠慮する人もいるだろうと想像します。
(余談ではありますが、自分がこういうタイプなので、将来はロボットに介護されたいと感じております)
介護老人保健施設 たかつの特徴
介護老人保健施設 たかつ の特徴として、
以上の取り組みの結果として、退職する職員が少ないことに繫がっているそうです。ただ、多くの介護施設はこういった体制を整えることが難しいと聞きますし、介護ロボットの導入と安定した運用に繋げる際に、人手の足りない現場では「新しいことを覚えるのが面倒」という変化への抵抗や、「機械を使うより自分でやった方が早い」「介護は人間の手でやることが重要。ロボットでは心が通わない」という固定観念が邪魔をしているように思います。
施設で職員からの虐待を受けた事例などがニュースで流れていますが、介護職の方の意見を聞くと、「逆に認知症の利用者から介護者が暴力を受ける場合もあったり、深夜に一人体制で夜勤を行うプレッシャーや疲労など、不幸な結果につながる土壌を改善しないと介護職を長く続けるのは難しい」という意見も聞かれます。
2015年9月、安部首相の記者会見で、
「1億総活躍社会」をつくる。そのために「GDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」といった目標を掲げていましたが、介護離職を減らすため、具体的にどんな施策を検討しているのか、注目していきたいと思います。
専門家へのアドバイスの難しさ
最初は導入に抵抗を示したパワーアシストハンド。
どういった課程を経ることで活用が進んだのでしょうか?
リハビリ担当の職員にパワーアシストハンドの導入を相談したところ、当初の反応は冷ややかだったという。「専門分野に立ち入ろうとすると強い拒絶に合うのは毎度のこと。『リハビリ器具として使おうとは言っていない。これはリハビリ“補助”器具なんだ』と説明すると、そういうことなら使ってみよう という話になった」。
介護以外の分野でも、長年培ってきた「当たり前」「専門職のプライド」が改革を邪魔するケースを目の当たりにすることは多くあります。
私自身の経験でも、販売職などでそういったケースを経験しましたし、事務系の仕事でも勤続年数の長いベテラン社員ほど仕事の進め方を変えたがないケースもよくあります。
「あなたが培ってきた経験や知見、プロとしての技術をさらに発揮してもらうためにも、便利な道具で補助してもらうことが大切」だという、自尊心を傷つけず、意欲を向上されるはたらきかけが、導入に繋げられるかどうかの鍵になりそうです。
介護の現場にロボットを導入するための課題
導入して良かったことは「何といっても、利用者に喜んでもらえたこと」。一方で、改善点も見つかった。一つは使い勝手だ。「グローブ部分が、ウェッ トスーツと同じ素材でてきていて、装着にコツがいる」。使用中にフィッティングがズレて職員が呼ばれるケースも多く、イージ・ウォークのように、ひとたび スイッチを入れれば職員がそばを離れられるわけではない。「定期的に製品への理解を深める講習などが必要と感じる」。
また、メーカー側に希望することとして「導入にはそれなりの予算が必要になるので、決裁者を説得しやすい材料があるとありがたい。当施設では1カ月間の試用を経て導入に至ったが、ほかに、利用現場を訪れての使い方の提案やアドバイスなどがあれば助かる」とした。
今後、介護の現場にロボットが広く普及するためには
が必要だということです。
まだまだ研究途上にある介護ロボット。
重量や使い勝手、メンテナンスのしやすさ、安全性のさらなる向上が求められますが、利用者目線、介護者目線でどのくらい有効活用できるようになるのか…高齢者がどんどん増えていく現状から考えると、国の強力かつ的確な支援が必要なのは間違いないようです。